yuki murai
村井 祐希
2014
2014 260×195cm Oil on Canvas 油彩、キャンバス エーリッヒ・フロムは言う。「愛においては、二人が一つになり、しかも二人でありつづけるというパラドックスが起きる。」 エーリッヒ・フロムのベストセラー「The Art of Loving」<愛するということ>から着想を得てこの作品を制作した。 激しいパラドックスこそ、真の調和であると論じるフロムの「愛の原理」が、絵画を制作する際にも生じていると、私は感じた。 絵画における妥協的な調和を私は嫌う。そもそも現実は超混沌であり、真実すらひっくり返る。そんな中、絵画にももはやミスマッチなんてものは存在せず、全てが超混沌である。当然その様な状況では、パラドックスが発生する。そして、そのパラドックスに対して調和するのではなく、永遠に戦い続ける事こそ、真の調和であり、私の「絵画の原理」である。これらの絵画は、二点で一つの作品である。示差性でそれぞれの絵画をみせようと考えた。 片方は粗いタッチで描かれた表現主義的な具象画、もう片方は抑制されたタッチで描かれたミニマリズム的な抽象画、とまさに対極を成している。
2014 260×195cm Oil on Canvas 油彩、キャンバス これらの絵画は、二点で一つの作品である。示差性でそれぞれの絵画をみせようと考えた。 片方は粗いタッチで描かれた表現主義的な具象画、もう片方は抑制されたタッチで描かれたミニマリズム的な抽象画、とまさに対極を成している。 実際にあるストライプのハンカチと同じ間隔、密度で線を引いていった。これはフランク・ステラの「ブラック・ペインティング」のように、必然的にタッチをのせていき、三次元性、イリュージョンを排除し、奥行き、広がりを一切感じない、自立したフォーマリズム絵画である。直接画面の前に立つと、複数のストライプによってめまいを感じる事があり、オプ的な要素もある。
2014 53×53cm Oil and Eggshall on Canvas 油彩、卵の殻、キャンバス オールオーヴァーに敷き詰められた、表現主義的な筆跡が、抽象表現主義のパロディでもある。(かつてリヒターがやったように)感情的表現を画面にぶつけるのではなく、極めて客観的に画面へ表現を構成した。
2014 60,6×50cm Oil and eggshall on Canvas 油彩、卵の殻、キャンバス クールベや抽象表現主義等を引用しているこれらの連作は、モダニズムを意識させる。私は、ポストモダンを超えて、芸術の価値基準が混沌と化し続けている現代に、価値基準が明快であるモダニズム的思考は、非常に重要なものであると考える。これらの連作のモダニズムの引用は、現代に対するひとつのアイロニー、パロディであり、そして歴史的コンテクストの重層化でもある。
2014 90×90cm Oil and Eggshall on Canvas 油彩、卵の殻、キャンバス 卵の殻は生産の証でありながらも、どこか崩壊的である。ここにパラドックスを感じる。卵の殻から何が生まれてくるか、何にでもなる事が出来る、という点で、ダリは自身のパフォーマンスと重ね合わせていたのではないだろうか。 クールベの絶望の男の自画像は極めて混沌としている。絶望しているはずの男の顔からは、ナルティシズムが溢れ出ている。まるで「絶望してる自分すらイケている」と言わんばかりの描かれ方だ。 これらのパラドックスは美しく成立していると感じた。そして何より軽薄で傲慢でありながら、希望に溢れている、現代性を強く感じた。 クールベや抽象表現主義等を引用しているこれらの連作は、モダニズムを意識させる。私は、ポストモダンを超えて、芸術の価値基準が混沌と化し続けている現代に、価値基準が明快であるモダニズム的思考は、非常に重要なものであると考える。これらの連作のモダニズムの引用は、現代に対するひとつのアイロニー、パロディであり、そして歴史的コンテクストの重層化でもある。
2014 260×780cm Oil and Acrylic and Stone and Cement and Tree on Canvas 油彩、アクリル、石、セメント、木、キャンバス キャンバスに容赦なく思いっきり、どんどん乗っける!そしてそいつを立ち上げる!ヒビがほとばしる!(まるでデュシャンの大ガラスのように!) 迫力満点に一気に崩れ落ちる!(まるでポロックのドリッピングを真っ向からそぎ落とすかのように!) このモロさ!俺はなんだか「日本っぽいな」と思った。そしてそれの大崩壊である!大崩壊である‼‼ 俺は超混沌と化した現状に、行き詰りを感じている。これを打破するには、混沌を弱めコントロールするのではなく、むしろ推し進めるのだ!混沌を弱めコントロールするのではなく、むしろ推し進めるのだ!超混沌の大崩壊である!スーパールネサンス‼今こそ超再生‼そして、超越の時である!
2014 180×230cm Oil and Acrylic and Stone and Cement on Canvas 油彩、アクリル、石、セメント、キャンバス
2014 290×500㎝ Oil on Eggshell on Canvas 油彩、卵の殻、キャンバス 私はこの作品に強烈なコンテクストとして、自国の社会問題である3.11の震災復興を投入した。そして、壊れた建物、瓦礫、亀裂を想起させるようなビジュアルにした。戦後日本のポストモダン的な歴史的な蓄積のない文化が原発等、様々な社会問題となって浮き彫りになったのも、3,11である。自国にとってこれほど強烈なコンテクストに成り得るものはないと思ったからである。ポストモダン以降の混沌とした現状からもいえるように、今日の現代美術は演出的である。作品にコンテクストを人工的に投入し、歴史の重層化を演出しなければならない。しかし人工的な演出はそれを超える場合がある。それを私は超演出と名称する。演出を超え、超演出の域に達した時、巨匠と呼ばれる。超演出は予測不可能な領域である。多方面では人工的な文化の蓄積からそれが予測不可能な状態になった3,11も超演出と呼ぶ事が出来る。数々の超演出で物議を醸したサルヴァドール・ダリの象徴である卵の殻を、画面にコラージュし、ダリを引用した。画面に複数引いてある線は現代
2014 260×390㎝ Oil on Canvas 油彩、キャンバス
2014 264×584㎝ Oil on Stone on Cement on Canvas 油彩、石、セメント、キャンバス 震災から三年、復興の手が全くつけられていない福島県富岡町に行った。被災地を見学する目的で来た私は、現地の方から拒絶されるのではと想像していたが、実際に現地の方に「見学目的をどう思うか。」と尋ねてみると、答えは私の想像と大きく異なり、「現状をよく見てほしい。忘れ去るのではなく、記録として残し、教訓として欲しい。」と強く訴えられた。そのうえで、私はこの地こそ描くべき風景との思いに強く突き動かされ、この作品を描いた。
2014 260×194㎝ Oil on Canvas 油彩、キャンバス